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【ニュースリリース】
《京都薬科大学・自然科学研究機構 生理学研究所/生命創成探究センター・製薬メーカー 株式会社池田模範堂・昭和大学・立命館大学》
傷の修復に関わる新たなメカニズムを発見~皮膚細胞機能がクロライドイオンにより制御される~

京都薬科大学病態生理学分野の細木誠之准教授、自然科学研究機構 生理学研究所/生命創成探究センターの富永真琴教授、製薬メーカー 株式会社池田模範堂の山野井遊博士、昭和大学医学部の高山靖規講師、立命館大学の丸中良典客員教授(京都工場保健会総合医学研究所長)らの共同研究グループは、TRPV3がクロライドイオンチャネルであるANO1の活性化を介し、表皮細胞の増殖・移動を促進することを明らかにしました。本研究結果は、Communications Biology(2023年1月23日号)に掲載されています。

【今回の発見】
1.表皮細胞において、TRPV3がANO1を活性化することを明らかにしました。
2.ANO1によるクロライドイオンの細胞内への流入が傷の修復に関わる細胞機能に重要であることを明らかにしました。

【概 要】
 擦り傷、切り傷などで皮膚が傷ついた時には皮膚の表面を覆っている表皮細胞が削り取られてしまい、その下にある真皮と呼ばれる敏感な組織が露出することで痛みを感じます。また、この真皮には無数の血管があるためこれらが破けることで出血します。このような傷が治る際には傷の周囲に残った表皮細胞が増殖し、傷口を再度覆うように移動することが知られています。これまで、この表皮細胞の増殖・移動には温度感受性TRPチャネルの1つであるTRPV3が関わることが知られていました。しかし、このTRPV3がどのように細胞の機能を制御するのかはよく分かっていませんでした。

 これまで富永真琴教授らのグループは、他のTRPチャネル(TRPA1やTPRV1)が同じ細胞にあるクロライドイオンチャネルであるANO1を活性化することを発見していましたが、TPRV3とANO1の関係や、ANO1やクロライドイオンと傷の治癒の関係は、分かっていませんでした。しかし、表皮細胞にはTRPV3もANO1もあることから、今回の研究では、TRPV3の活性化がANO1の活性化を誘導する可能性について検討しました。ヒト表皮細胞を用いて実験を行った結果、TRPV3を活性化する成分であるカンフル(樟脳)を表皮細胞に作用させるとクロライドイオンに由来する電流が流れ、ANO1チャネルの働きを阻害する薬剤を加えた時にだけ、電流が小さくなることが確認されました(図1)。このことはTRPV3の活性化がANO1の活性化を誘導し、クロライドイオンチャネル由来の電流が流れていることを示しています。

 さらに、人工的に傷の治りを模した実験で表皮細胞の動きを観察するとANO1の働きを阻害する薬剤の存在下では表皮細胞の動きが遅くなり、増殖も抑制されることが分かりました(図2)。同様の実験を、クロライドイオンを減らした培養液の中で行うとANO1の働きを阻害した場合と同じように、表皮細胞の動きが遅くなり、増殖も抑制されることが分かりました(図3)。さらに表皮細胞内のクロライドイオン濃度を測定したところ、細胞外のクロライドイオン濃度よりも低く保たれていることが分かりました。

 これらのことからTRPV3により活性化されたANO1を介してクロライドイオンが細胞内へ流入することが、表皮細胞による傷の修復に重要と考えられます。

 ANO1やクロライドイオンと傷の治癒の関係はこれまで注目されておらず、今回の結果が更なる傷の治りのメカニズム解明に役立ち、新たな傷の治療法の開発につながるものと期待されます。

 本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

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