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【在宅医療研修アドバンストプログラム報告】
10日間の研修で得た気づき。“他職種から”相談される薬剤師を目指す

今年度、4年ぶりに実施している「在宅医療研修アドバンストプログラム」の第1クールが6月16日に終了しました。このプログラムは医療法人社団都会 渡辺西賀茂診療所のご協力のもと、5年次生を対象に実施する選択制プログラムであり、病院とは異なる環境下で、他職種と協働しながら地域で患者を支えていく医療を経験し、その中で薬剤師として何ができるかを考える機会となっています。
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6月5日から始まった第1クールには、5年次生の小谷こたに侑杜ゆうとさんが参加。最終日となる6月16日のカンファレンスでは、小谷さんから研修全体の振り返りとして最終発表が行われた後、渡辺西賀茂診療所の医師、看護師、ケアマネジャー、介護福祉士、連携施設であるゆう薬局の薬局薬剤師等の医療スタッフに本学教員も加わり、質疑応答や意見交換が行われました。



今回、本プログラムに参加した小谷さんに、10日間の研修で得た学びや気づきなどについて改めてお話を伺いました。

―1日の研修スケジュールは?  
日によって異なりますが、朝8:30から連携薬局や施設とオンラインで接続して、多職種ミーティングが行われます。前日のオンコールの情報や申し送り、患者さんの対応に関する相談など、20~30分程度です。その後、お昼まで医師に同行して訪問診療、午後からは訪問看護や訪問リハビリに同行します。16:30頃に診療所に戻り、その日の情報共有や相談を行うカンファレンスに参加した後、日誌を記入して17時頃に帰宅していました。また、別日には南丹市にある連携薬局で実習を行った日もありました。



―研修を通して学んだことは?
 
これまで座学だけで学んできたことを実感として得られたということが一番大きかったですね。授業などを通して、これからの薬剤師が果たすべき役割や患者さんとの関わり方など、頭では理解していましたが、現場で実際にそれを実践されているのを見ることができた。それ自体が大きな学びになったと思います。それと同時に、薬剤師が専門性を発揮していくためには、時間も人手も必要だということが分かりました。特に在宅医療においては、もっと薬剤師の数が必要ではないかと感じています。

―印象に残っていることは?  
「何も意見を言わないよりも、患者さんの状態等を見て積極的に提案してくれる薬剤師の方がいい」という医師からの言葉です。一般的に薬剤師は単に「医師が処方した薬を渡してくれる人」というイメージを持っている方がまだまだ多いと思いますし、自分自身もこれまで心のどこかでそういうイメージを拭いきれていないところがあったように思います。でも、渡辺西賀茂診療所では、薬剤師が患者さんの症状などを見て、医師に処方や用量変更などの提案や相談を日常的に行っています。それを医師も受け入れていて、むしろそういった提案を必要としている。薬に関して薬剤師が一番詳しいということは当然ではあるんですが、それを当たり前に実践されていることが純粋に「すごい」と思いました。

―患者さん対応などはいかがでしたか?  
患者さんとお話しするのはとても楽しかったです。なかなか1人の患者さんとお話しできる時間は少なかったですが、患者さん本人だけではなく、お薬を管理されているご家族や入居されている施設の職員の方とお話しすることも多かったですね。 患者さん対応とは少しずれるかもしれませんが、研修中、訪問診療に行ったある患者さんがその日の夜にお亡くなりになったことを翌朝のミーティングで知ったということがあったんです。たった10日間の研修でしたが、高齢者の方が多い在宅医療では最期をどう迎えるか、ということも医療の一部なんだなと感じました。薬剤師として痛みを緩和させるお薬の種類や量を提案すること以外に何ができるのか、何かできることはあるのか、そういうことも考える機会になったと思います。

―研修を終えて反省点などはありますか?  
今回、在宅医療の中で、薬剤師としてだけでなく他職種の視点を学ぶということを大きな目標のひとつとして参加したんですが、研修が始まってみると、毎日とにかく目の前のことに必死で…(笑)他職種の方々がどのように動いているのか、患者さんと接しているのかを実際に見ることはできましたが、まだ今は自分の中でうまく消化できていないというか、なかなか言葉で説明できない状態です。これから薬局・病院の実務実習を経験して、さらに薬剤師との視点の違いなどが自分の中でも明確になっていくのかなと思いますが、研修中にもっと他職種の皆さんに「どんなことを心掛けているのか」や「どういう視点で対応しているか」といったことを直接聞いてみればよかったなと思っています。

―将来の進路についての考え方に変化はありましたか?
 
もともと臨床系志望ではあったんですが、よく聞くフレーズで「患者さんから気軽に相談される薬剤師」が理想だと思っていたんです。でも研修を通して、むしろ「“他職種から”気軽に相談される薬剤師」を目指したいと思うようになりました。もちろん、患者さんにとって相談しやすいことは大切なことですが、それだけではなく、他職種にとっても相談しやすいということは、より良い医療をチームで一緒に考えていくことができるということ。それは患者さんにとっても当然良いことで、信頼にも繋がります。そうすれば結果的に患者さんからも相談しやすい薬剤師になるのではないかと思っています。 また、カルテなどの書類上だけではなく、顔を合わせて密に情報共有する場を設けることで、「この人なら聞ける」と思ってもらいやすい環境づくりもとても大切だと感じました。

このプログラムは病院や薬局などの臨床系を目指す方はもちろん、企業志望の方であっても、学べることはとても多くあると思います。これからますます必要となっていく在宅医療の現場を知り、医療に携わる者として患者さんとどう向き合うべきか、どんな貢献ができるのか、自分なりの視点を得ることは、どんな仕事に就いたとしても将来の自分自身にとって重要なことではないかと思います。