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能登半島地震 臨床薬学教育研究センターの今西孝至講師が薬剤師として被災地で災害支援活動を実施【インタビュー】

2024年1月1日の能登半島地震から約3週間後となる1月22日~26日の5日間、本学臨床薬学教育研究センターの今西孝至講師が薬剤師として被災地での災害支援活動を行いました。今回の災害派遣は日本薬剤師会の災害支援業務としての派遣で、京都府薬剤師会からの要請を受けて行われたものです。

1月22日に石川県に向けて出発、5日間の活動を終えて1月26日に帰還した今西講師に、現地での活動についてお話を伺いました。

―今回、派遣されたのはどの地域ですか?
 今回は、京都府薬剤師会の第二陣として石川県の穴水地区に行ってきました。能登半島地震の災害拠点は穴水地区以外に門前地区、能登地区、輪島地区、珠洲地区の5拠点があり、中でも珠洲地区が最も被害が大きい地区です。私が行った穴水地区は珠洲地区と比較すると被害は小さいものの、まだまだインフラ整備が不十分なところがある場所でした。

     

―派遣先では主にどのような業務を担われていたのでしょうか?

 穴水地区はある程度災害復興が進んでいるため、私が派遣された時期は地域の保険診療に戻す方向での災害支援活動がメインでした。そのため、薬剤師としての災害支援活動として、①DMAT(災害派遣医療チーム )やJMAT(日本医師会災害医療チーム)との帯同、②避難所の環境・衛生管理、③避難所生活をされている被災者のみなさんの体調チェックや服薬管理状況の確認、④発行された災害時処方箋によりモバイルファーマシーで調剤された医薬品の配達、などが主な活動でした。

     

―道路や街はどのような状況だったのでしょうか?
 まだまだインフラ整備が不十分であり、特に上下水道が復旧していないことから、飲み水やトイレなどの生活面において非常に大変だと感じました。道路等も徐々に整備されつつあるものの片側一方通行のところも多く、また家が壊れたまま放置されている場所などもあって、通常の日常生活に戻るまでまだかなりの時間を要する状態でした。

―被災地での活動を通して、薬剤師としてどのような能力や心構えが必要だと感じましたか?
 能登半島地震の被災地への災害派遣に行かせていただき、様々なことを考える良い機会になりました。たくさんあり過ぎるので「これだけは…」というものに絞り込んでお話しします。
 まず一つ目として「自動化に頼り過ぎないこと」です。近年、医療においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により様々なことが機械化・自動化されていますが、災害時においては電気等のライフラインが切断され、思うように自動化された機械などを活用できません。実際に災害拠点では、医師による手書きの処方箋であったり、薬袋作成も手書きであったりと、一から自分自身で作業しなければなりません。したがって、被災地での医療支援業務においては、アナログ的な対応ができるようにしておく必要があると思います。
 二つ目として「臨機応変な対応ができること」です。これまで日本では阪神淡路大震災や東日本大震災、熊本地震などにおいて薬剤師が様々な形で災害支援に関わってきましたが、全く同じ災害はなく、災害後の状況はすべて異なります。つまり、マニュアル通りにはいかない場面が非常に多いです。そのため、災害支援活動においては、その場その場で自ら考えて、一番ふさわしいと思われる対応を選択し実行できる能力が必要です。そのためには、様々な知識や経験をもって、自ら判断できる能力を養うことが必要だと思います。
 三つ目として「自分の能力(特に自分の限界点)を知ること」です。災害支援活動は通常の業務とは異なっています。危険な場所に行くことがあるかもしれませんし、今までにやったことがないことをしないといけないかもしれません。支援しようと思う気持ちだけではどうにもなりません。災害支援活動は「実行できるか」が重要です。自分の能力、特に限界点を理解してその認識を持っていなければ、被災支援に行った者が逆に被災者に助けてもらわなければならない状況になるかもしれません。これは絶対に避けなければならないことです。ですので、自分の能力、特に限界点を知っておいて欲しいと思います。
 
―本学学生や薬学部を目指す方へメッセージをお願いします
 今回、被災地を訪れて「自分たちが今普通に生活できている有難さ」を認識するとともに、いざ災害が発生すると「当たり前が当たり前でなくなる」ということを改めて実感しました。災害支援は体力も必要ですし様々な能力も必要になりますが、そうした経験をすることで、薬剤師や医療人としてだけではなく、一人の人間としても自分自身の視野が広がると思います。薬学生の皆さんが将来薬剤師になられたとき、もしも大きな災害等があった際には災害支援活動に積極的に参加していただけたらと思います。