本学の卒業生で、現在は本学の公衆衛生学分野の教員として教鞭をとられている
松本崇宏 准教授。学生時代の話や大学教員・研究者としての仕事、これからの目標について伺いました。
■本学に入学した理由
私は幼い時から動物や植物が好きで、家では犬や熱帯魚、昆虫などを飼育・観察していて、そこから理科に興味を持つようになりました。そして中学生のころに、教科書で新薬の発見が多くのヒトの命を救い、その生活を一変させてきた歴史を学んで、創薬を目指す研究者になることが目標になりました。その夢は高校生になっても変わらず、大学進学を検討していた時にその想いを先生に伝えたところ、多数の薬学研究者を輩出している本学を紹介してもらいました。その後、自分なりにインターネットや雑誌などで情報収集したところ、論文数の多さや研究設備が整っていることなどが分かり、本学が私立薬学トップの研究力をもつ大学であると確信し、入学を決めました。
■学生生活での思い出、印象に残っていること
大学院生の時に、自身が中心となって執筆した論文が学術誌に掲載され、さらに、その論文が初めて引用されたことは特に印象に残っています。引用された論文では、外国の研究者によって私たちが発見した化合物をさらに合成する研究が展開されていました。科学の発展は1つのグループで成し遂げられるものではなく、世界中の研究者が相互に情報を伝え合うことで進んでいくものだと思います。私たちの研究成果が世界に向けて発信され、影響を与えていること、その責任を改めて実感しました。

学生時の留学先での1枚
■教員の1日のスケジュール・過ごし方
大学教員は、教育・研究活動を中心としながら、大学運営および社会貢献活動にも携わります。これら業務にかける時間は個人の判断に委ねられており、それぞれの教員によって大きく異なります。
私の場合ですと、年間を通して6割の時間で研究活動を行い、3割を講義・実習を通した教育活動、1割を大学運営・社会貢献活動に充てています。ここでの研究活動には、研究室運営業務、学生からの研究方針や進捗に関する相談、および研究に関わる教育を含めています。日によって行う仕事が大きく異なりますが、例えば、集中できるときに研究計画の立案、実験データの考察、および講義の準備を頑張り、少し疲れを感じるときは単純な作業を行うなど工夫しています。

講義・実習では、現在は公衆衛生学を担当しています。疾病の原因となる生活環境中の物質がなぜ健康に影響を与えるのか、健康を守るために何ができるのかを考える学問です。医薬品だけでなく、食品も対象として学生に学んでもらっています。
また、他分野の先生方との交流も日頃からよくあります。私は学生時代から先生とよく話をしていたこともあって、研究に係る書類作成で悩んだ時には相談させてもらったこともありました。それぞれの専門領域の目線から話してくださるので、新しく気付くこともあり、とても勉強になります。
■現在の研究テーマ
私たちの身の回りの多くの植物組織内には、宿主に対し病原性
※1を示さない「植物内生真菌」とよばれる真菌が生息しています。宿主植物と植物内生真菌は互いの生存に有利となる共生関係にあることが知られています。例えば、植物内生真菌は宿主植物から栄養素を受け取る一方で、昆虫に対する防御に役立つ化合物を産み出すことがあり、これにより植物および真菌は共に生存できる可能性が高まります。
この例にとどまらず、私は植物と植物内生真菌は人類が未だ知らない方法で互いに影響を与え合っていると考えています。この現象を解き明かし、応用することで、植物に新たな化合物を作らせることや、薬用植物が持つ有効成分の含量を高めることができると考えました。そこで現在、本学薬用植物園の協力の下、植物内生真菌が産み出す物質が植物細胞に与える影響を解明するとともに、得られた知見を応用し、新たな薬の種を創出することに挑戦しています。
※1微生物が宿主に感染し、病気を引き起こす能力

■今後の目標
ヒトの健康維持・増進に貢献することです。具体的には、私たちの研究を通して見出した薬の種を社会に還元するために、まずは基礎研究データの蓄積を目指します。さらに臨床応用のためには、ヒトへの有用性を示す必要がありますが、これは基礎・臨床分野において蓄積されつつあるビッグデータの活用により、実現できる可能性があると考えています。
また大変ありがたいことに、本学に着任してからこれまで、同じ志を持つ学生と共に活動することができています。彼ら・彼女らの考えから学び、私の経験を伝えることで、共に目標の実現を目指したいと思います。
■薬学部への進学を考えている方/京薬生へメッセージ
このインタビューでは大学教員・基礎研究者としてお話ししましたが、将来臨床での活躍を志されている方に、大学での研究活動の重要性を改めてお話しさせてください。本学のホームページを見てもらうと、多くの学生が学会等で受賞していることが分かるかと思います。これは、3年次生後期から薬学研究に取り組み、問題発見・解決能力ならびに情報収集・発信能力を醸成した成果の一部です。研究を通して身に着けたこれらの能力は将来、薬剤師として最適な薬物治療を実践することに役立つことはもちろんですが、臨床現場で得られた知見を世界に向けて発信し、世界中の患者さんの健康維持に貢献することにも繋がります。
研究者を志すにあたり他学部への進学を目指されている方が、もしこの記事を読まれているなら、薬学部、そして本学への進学も検討してみてください。本学では研究力を持った薬剤師の輩出を目指しており、各研究室で幅広い研究が展開されていますので、きっと興味のある内容が見つかると思います。また、薬剤師になることは大学の医療系学部、衛生研究所、医療機関、および薬を扱う企業等にも活躍の場を広げることに繋がります。
最後になりましたが、在学生の皆さんには、ぜひ、自分がかっこいいと思う将来の姿、職業を目指してください。やりたいことがあっても難しそうだから…という理由で諦めないでください。なれるから目指すのではなく、頑張ればきっと何にでもなれます。
皆さんと共に、ヒトの健康維持・増進に向けた活動に取り組める日を楽しみにしています。

学会参加後の学生たちと
過去の掲載インタビューについては
こちらをご覧ください。